政府は、国の安全を高める目的で安全保障関連法案を国会に提出した。国の安全とは、他国が、日本を武力で攻撃することを、事前に防ぐこと。そのため日本はアメリカとの連携を強めて他国が日本を攻撃することをあきらめさせようとするもの。
 
日本の安全保障環境の変化を考えると、ここまではその通りだと思う。ところが法案の審議に入ると政府の説明は勉強不足のためにわかりにくい。一方野党は、国の安全保障を真剣に考えているのかといいたくなるほどお粗末な対応をしている。安全そっちのけで、いかにして政権にダメージを与えるかに力を入れている。
 
野党は、「戦争法案」だとか、「徴兵制を復活させる」といって、国民の不安をあおりたてている。830日に国会周辺で安全保障関連法案に反対する集会が開かれた。集まったのは主催者が12万人、警視庁は3万人と発表しているが、毎度のことだが開きが大きすぎる。
 
それにしてもメディアは、なぜこの集会を大きく取りあげたのだろうか。まるで日本中がこの法案に反対しているかのような扱いだ。多くの新聞は1面に、中には2面、3面と社会面まで使って大きく取りあげたものもあった。集会に参加した有名人が、「フランス革命」にも匹敵することが起こっていると訴えたと書いていたが、あまりにも陳腐で認識不足だ。
 
民主党の岡田代表は集会で、「憲法違反の法案」は通すわけにはいかないと呼びかけた。集会に参加するのは自由だが、国会議員なら国会で、もっと真剣に審議を尽くすべきだ。
 
野党第1党の民主党は、現在の安全保障環境をどのように考えているのだろうか。安保法案を廃止にするといって衆議院の特別委員会で、強硬採決反対などと書いたプラカードをTVカメラに掲げていたが、これでは国民から支持が得られるわけがない。
 
NHK8月に調べた政党支持率をみると、各党の支持率に大きな変化はない。自民党が34.3%に対して、民主党は10.9%と支持が増える兆しはない。野党全部を足しても18.6%にすぎない。特徴的なのは、常に「支持政党なし」が自民党と拮抗し、8月は34.5%となっている。
 
ただ内閣支持率は7月、8月と2か月続けて「支持する」が「支持しない」を下回った。これは201212月に阿部内閣が発足してから初めてのこと。しかし9月に新聞各社が行った調査では、再び「支持する」が「支持しない」を上回った。  
 
安全保障関連法案には3つの狙いがある。1つは集団的自衛権の行使を可能にすること、2つ目はアメリカの政策転換によるもの、3つ目は、中国の武力強化をけん制するため。
 
これまで歴代の政権は、集団的自衛権の行使を憲法違反としてきた。しかし、安倍内閣は制限付きで行使を容認した。もともと自民党の結党目的は憲法改正。戦後、アメリカによって作られた憲法を日本独自で作り直そうという強い意志がある。
 
日本は集団的自衛権を持ちながら行使できないのは憲法上の制約があるため。行使するには憲法を改正しなくてはならない。しかし憲法改正には衆参両院で3分の2の賛成を得て国民投票で過半数を得なくてはならない。現状与党は参議院で3分の2に達していない。それに国民投票で過半数を得られるか明確な見通しはない。したがっていつ改正ができるかはっきりしない。
 
安倍首相は、いつまでも日本がアメリカに守られているよう状況をから抜け出し、自立した立場に立ちたいという思いが強いのではないか。実質自衛隊は軍隊でありながら軍隊とは呼べないし、アメリカ軍が攻撃を受けていても援護できない。このままではアメリカから信頼を得られないし、関係を弱めてしまうことになりかねない。かといって憲法改正には時間がかかる。そこで憲法の解釈を変えて集団的自衛権の行使を可能にしたということだろう。
 
昨年の71日、政府は臨時閣議を開いて、集団的自衛権の行使容認を決定した。これを受けて今年4月に「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)18年ぶりに改定した。ガイドラインは、日米安全保障条約に基づいてつくられ、日米間の防衛協力の基本的な枠組みや方向性を示している。
 
これまでのガイドラインは、朝鮮半島の有事を念頭に日本周辺で武力衝突が起きた場合の自衛隊と米軍の役割分担を決めたもの。今回改定したガイドラインは、集団的自衛権の行使を前提に、日本を守るための協力体制の見直しと、自衛隊が米軍の支援を世界規模に拡大する内容。
 
改定の基本は、日米安保条約の片務的解消にある。片務的とは一方だけが義務を負うこと。すなわちアメリカは日本を守る義務があるが、日本はアメリカを守らなくてもよいというもの。これは憲法上の制約によるためだが、アメリカがつくった憲法だからアメリカは文句の言いようがない。
 
集団的自衛権が一定の制限を設けて同盟国への行使を認めるとはどのようなことなのか。これまで日本近海で日本の防衛にあたっているアメリカの艦船が攻撃を受けたとしても、自衛隊が出動して援護することはできなかった。これを援護できるようにするという、当たり前といえば当たり前のこと。
 
国会の参考人になった元内閣法制局長官が、集団的自衛権の本質は他国防衛だと述べたが、ではなぜ自衛権と呼ぶのか。自衛のための他国防衛だからではないのか。
 
集団的自衛権の行使をめぐって合憲、違憲問題が盛んになり、戦争に引き込まれる恐れがあるとか、自衛隊員の危険が増えるなど野党が指摘した。戦争を避けるための法案が、いつのまにか戦争法案と呼ばれるようになってしまった。
 
次の目的はアメリカの国内事情にある。20154月、オバマ大統領は「われわれは世界の警察官であるべきではない」と語った。アメリカの国家財政は赤字が増大する一方で、国債などの債務が占める割合が75%にもなろうとしている。かつて米軍は、イラクやアフガニスタンで、大規模な国家予算を潤沢に使ったが、もうその時代は終わった。経済的な理由だけではない。アメリカ人の半数が、よその国のことに口出しすべきではないと考え始めるようになった。
 
そうはいってもアメリカは、自らがつくりあげてきた国際秩序を維持する必要がある。そのためには同盟国との協力関係の強化が必要である。そこでアジアの同盟国に対して、自分の国を防衛するための能力を高める努力をすることを促した。またアジア地域の国は、各国が協力してアジア太平洋地域の安定化を図るための努力をすることを強く求めるようになった。
 
米国の力をあてにして、自国の安全保障を確保するような状況はもはや認められなくなってきたのだ。他国からは、日本は憲法を盾に、あれもできないこれもできないといっているようにみられる恐れがある。現に破天荒な発言で話題を集めているアメリカの大統領候補の一人は、日米安保の不公平さを痛烈に批判している。
 
次に中国の台頭。中国はGDP世界2位という経済力を背景に軍事力の強化を推し進めている。世界に向けて軍事力を誇示するために、93日に行う抗日戦争勝利70周年記念式典を行った。特定の国を対象にしていないといいながら、「抗日」を掲げているのは明らかに矛盾している。
 
式典には各国の首脳や高官が出席したようだがプーチン大統領と韓国大統領が出席した。アメリカ、ドイツ、EUは、政府代表を派遣したが、日本は、政府関係者は一切出席しなかった。
 
中国の軍事力強化は国防費に表れている。2015年の中国の国防予算は、前年比で10.1%増の169千億円。国防費は5年連続して10%増えている。国際社会からは膨張する国防費の透明性を求める声が上がっている。
 
2014年の軍事費は、1位がアメリカの6,100億ドル、2位が中国の2,160億ドル、3位がロシアの845億ドル、日本は9位で458億ドルとなっている。このように中国はまだアメリカとの差があるとはいえ、軍事力を急速に強めている。
 
兵力は中国が230万人、アメリカが157万人、北朝鮮が119万人、ロシアが96万人、韓国が66万人程度とみられる。日本の自衛隊員は24万人。なお今回中国は兵力を2017年末までに30万人削減すると発表したが、この程度では実質的な軍事力の削減には結びつかい。
 
中国は尖閣諸島と東シナ海ガス田開発の問題を抱えている。中国は、日本の固有の領土である尖閣諸島の領海を頻繁に侵犯し挑発し続けている。さらに東シナ海では日本との共同開発を合意しておきながら、これを無視してガス田の開発を勝手に進めている。これは資源強奪の疑惑がある上に、軍事基地として利用する恐れがある。もしそうなれば安全保障上かなりな脅威になる。
 
また石油や天然ガスなど豊富な天然資源が埋蔵されている可能性のある南シナ海では、中国は大規模な埋め立てを進め、滑走路や港湾などの施設建設を進めている。この地域は海上交通の要所であるだけでなく、埋め立て地は軍事目的にも利用される恐れがある。
 
この地域は台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張しているが、中国は管轄権を主張して実効支配している。
 
このように中国は国際法を無視した強引な方法で領土拡大を進めている。またロシアは軍事力によってクリミアを併合するなど似たような行動をとっている。両国は国連安全保障理事会の常任理事国であり拒否権をもつ。そのため、いかに他国が両国を非難し、訴えても安保決議は決して通らない。これまでにもこのようなことは何度もあり、国連は有効に機能していない。
 
ロシアは、第二次大戦後、北方領土を実効支配している。8月22日、ロシアのメドベージェフ首相が択捉島を訪れた。ロシアがこの地域の開発を重要視していることを示すため。メドベージェフは過去2度国後島を訪れている。これは領土問題で日本と妥協しない強硬な姿勢を示すため。しかし、プーチン大統領は一度も北方領土を訪ねていない。このことは、ロシア国内には強硬な世論があること示しながら、一方では日本との領土交渉を有利に進めたいという思惑があるものと思われる。
 
さらに北朝鮮は核開発を進め、頻繁にミサイル発射実験を行っている。6月にはミサイルを日本海に向けて発射している。19988月には北朝鮮が発射したテポドン1号は日本列島を越えるコースを飛行し太平洋に落下している。
 
昨年度の航空自衛隊の緊急発進は、943回で、そのほとんどが中国機とロシア機でほぼ半々の割合になっている。
 
これらをみたとき日本の安全保障をどのように考えたらいいのだろうか。いつどのような危険な状態になるのか想定することはできないが、ここで取り上げた国は、さまざまな準備を着々と進めていることは間違いないし、常に挑発的だ。民主党はこのような現状をどのように感じているのだろうか。またアメリカとの関係をどのようにしようとしているのだろうか。
 
国の最大の責任は国民の生命と自由と財産を守ること。そのために政治は先を見据えて必要な施策を整えることは当然のことといえる。安全保障関連法案はその一環といえる。
 
政府はアメリカとの連携を強化することによって抑止力を高めるという現実的な方向へ向かっている。集団的自衛権の行使に関しては、自衛措置に限るという厳しい条件を設けている。これらが戦争を起こさないための手段と考えることは同意できる。
 
野党は戦争をするための法案だと繰り返して不安をあおっている。戦争には巨額な財源が必要だ。1千兆円もの借金のある国家財政、どのようにして金をあつめることができるのか。アメリカも中国も戦争は避けたいのだ。人命はもちろん財政負担が大きすぎる。世界経済は不安定で高度成長は望めない。
 
第二次世界大戦で政府は、現在の金額で数千兆円の国債を発行したが、結局価値のないものにしてしまった。
 
ならば野党、特に野党第1党の民主党は、現在の安全保障環境やアメリカとの関係をどのように考えているのだろうか。安保法案を廃止にするといって衆議院の特別委員会で、強硬採決反対などと書いたプラカードをTVカメラに掲げていたが、こんなことしかできないのかという思いが強まった。
 
安全保障関連法案がどのような形で成立するかに関心が集まっている。一つは60日ルールを適用するものだが、採決に向けての動きもある。どちらにしても法案は今国会の会期内には成立する。
 
ここで、これまで進められてきた国会での審議の経緯を振り返ってみる。去年7月に閣議で集団的自衛権の行使を容認し、これを受けて今年の4月27日にガイドラインを改定した。さらにガイドラインを実践できるようにするための安全保障関連法案が国会で審議されてきた。
 
5月26日から衆議院で法案の審議が始まったが、さっそくつまずいた。64日、衆議院の憲法審査会に3人の憲法学者を参考人として呼んだが、自民党推薦の参考人が集団的自衛権の行使は憲法違反だと表明したからこれに野党が飛びついた。法案の本質はほっておいて、延々と違憲発言が続き、無駄な時間を使ったようだ。
 
野党は、憲法学者が違憲と言っているから憲法違反だと主張し続けている。しかし、学者は憲法の条文を解釈するだけであって、中国や北朝鮮の行動などと結び付けて判断しているわけではない。学者は自由な立場で発言するが、政策に責任をもつ立場にはない。政策の結果に責任を負うのは政治家。今でも自衛隊は違憲だとする憲法学者は多いそうだ。なぜなら憲法の条文には自衛隊の存在が明記されていないからだ。
 
それにしてもなぜ自民党が推薦した参考人が違憲発言をしたのだろうか。この参考人は早稲田大学の教授だが、これまでたびたび国会の委員会に参考人として呼びだされてきた。
 
しかし自分が、何党から推薦を受けたかはっきり知らないことがほとんどだったそうだ。「特定秘密保護法」の審議のときも自民党推薦の参考人としても呼ばれたが、当日その場で自民党の推薦人だと知らされたという。「裁判員裁判制度」導入の時は、何党の推薦なのかいまだにわからずじまいのままだそうだ。党から推薦を受けてもこのように答えて欲しいと頼まれることはまったくないそうだ。なんともおかしなことがあるものだ。いい加減なのか、公平さを求めたためなのかはわからない。
 
716日、衆議院での安保法案の審議が116時間に達し、十分に審議したとみなしたのか採決に入り、賛成多数で可決した。その後727日に法案審議は参議院移った。
 
ところで集団的自衛権の行使には制限がもうけられている。それが以下の新3要件だ。
 
 わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合。
 
 これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないとき。
 
 必要最小限の実力を行使する。
 
それにしてもこれを読んだだけでは制限の内容はわからないし、政府の説明を聞いていてもわからない。なぜこの法案が必要なのか、法案の全体像はどのようになっているのか、なぜ10の法律を1つにまとめる必要があるのか、法律を改定したポイントはどこか、後方支援の内容や、人道支援の必要性と内容など疑問は多い。
 
特に国民が気にしているのは、自衛隊は戦争に巻き込まれる恐れはないのかという点。もっともアメリカにも日本を守っているうちに戦争に巻き込まれる恐れがある。それに自衛隊員は危険にさらされることがあるのか、さまざまな危険に直面した時の歯止めはあるのか、自衛隊は世界中どこにでも行くことになるのかなどについての指摘がある。
 
1991年の湾岸戦争で、日本はアメリカなどに約130億ドルの財政支援をしたにもかかわらず、自衛隊を派遣しなかったことが評価されなかった。その後、日本はアメリカなどの求めに応じて、1992年から国連の平和維持活動(PKO)に、2003年からは イラクへの人道支援に自衛隊を派遣した。自衛隊の海外派遣に反対する国民は多かったが、海外派遣が恒常化し、定着するようになり、国際的な評価が高まるにつれて国内でも評価が高くなった。
 
19926月にPKOへの自衛隊の組織的な参加を可能にしたPKO協力法案が衆議院本会議で成立した。23年前の参議院では34日に及ぶ牛歩戦術が行われた。当時審議に十分に時間をかけたが、結局野党からの理解は得られないまま成立させた。今回もこの状況に似ている。
 
今回、参議院に移ってからの審議が深まったとはとても思えない。維新の党が対案を提出したのを受けて与党は調整に入ろうとしたところ、突然維新の党に分裂の動きがでたため見通しが立たなくなってしまった。
 
結局与野党とも丁寧な説明をするといいながら、あいまいのまま終わろうとしている。審議に時間をかければいいというものではない。重要なのは説明力なのだ。安全保障の具体的な状況や対応について政府の詳細な説明には限度があるのかもしれない。
 
具体的に危険な状態を想定すると、特定な国を刺激することになりかねない。またできることやできないことが全部わかってしまう恐れがある。それでは相手の思うつぼになってしまうことになってしまう。
 
そうなるとあいまいな部分を残して政府の裁量権が重きを置くことにならざるを得ない。当然政府の判断で物事が動くことはある。政府が正しい判断ができれば決して悪いことではない。しかし、政府・与党は国民から任せたといわれるほど信頼を得られるかどうかだ。いづれにしても政府の説明が力不足なことは否めない。
 
それにしても民主党には、政策論で与党と対等に渡り合おうとする姿勢が見られない。何にでも反対するだけの政党かとみられてしまう。すでにその傾向は強い。それは党内事情があるからだろうか。
 
民主党には、かつて自民党から旧社会党に所属していた議員がいる。そのため政策を一つにまとめるのが難しいのではないか。政権を担っていた当時からそのことが見えていた。
 
それにしても525日から安全保障関連法案が衆議院で審議入りしているにもかかわらず、国会での議論が深まったとはいえない。特に政権を担ったことのある民主党は、日本の安全について政府与党と正面から論じあう契機であったはずだ。
 
ところが政府が日米同盟によって抑止力を高めるとする安全保障関連法案を、民主党は「憲法違反」、「戦争法案」などと決めつけて頭から否定して廃案にすると主張している。ならば民主党は国会で日本の安全保障をどのように考え、日米関係をどのようにしようとするのか表明すべきだった。いまさら言っても仕方がないことだが。

 なにかと中国の動きが注目を集める。最近話題になっているのが中国主導で進められているアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立の動き。表向きの理由は、世界経済のけん引役として成長が期待されているアジア諸国の資金不足に応えるため。しかし実情は、中国の国内事情によるとこものと思われる。

アジアは2020年までに年間100兆円近い投資需要があるとの試算がある。すでに世界銀行などの金融機関があるが、この膨大な資金需要には応えきれない。そこで中国は各国から参加を募ってAIIBに資金提供を受け、途上国に資金提供をしようというもの。

中国のAIIB設立の狙いの一つは国際的な発言権の強化。中国は世界第2位の経済大国だが、なかなか国際金融社会での発言権を強めることができない。主な金融機関に世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)がるがいづれもアメリカ主導のもとに秩序が守られてきた。
 
世界銀行は、途上国への資金や技術支援をする。特徴として貧困削減がある。総裁はアメリカで、資本規模は、28兆円。出資比率は米国が16.7%、日本が7.2%、中国が4.6%。

IMFは財政収支が悪化した国への資金援や為替相場の安定化などを目的としている。総裁はヨーロッパからでている。資本規模は43兆円。出資比率は、米国が17.7%、日本が6.6%、中国が4.0%。

アジア開発銀行は、アジア諸国への開発資金融資、技術援助などが目的。総裁は日本人。資本規模は19兆円。出資比率は、日本が15.5%、米国が15.6%、中国が6.4%。

各機関ともに議決権は出資額に応じて決まる。議決権が低いと融資先や内容、融資額についての意見が反映されにくくなる。3つの機関をみるといづれもアメリカの出資比率が高くなっている。

中国はこの点に不満を感じている。それに環境面などで融資の審査が厳しいここともある。たとえばIMFについて、アジア通貨危機のとき審査が厳しく時間がかかって間に合わなかったことがある。また融資の条件が厳しく、緊縮財政が条件であったため経済を悪化させてしまったこともある。これらのことを中国や途上国は不満に思っている。
 
このようにアメリカ主導の体制で、融資条件が厳しいことに不満を持ち、中国主導の新しい体制作りをつくることを目的にAIIBの設立をめざした。それに中国の経済的ナ事情が加わる。

中国は過去数年、毎年8~10%の経済成長を続けてきた。しかしその半分は投資がもたらした伸びだった。投資は製造業の設備投資、不動産への投資、公共投資などだが、リーマンショック後の経済の落ち込みを防ぐため、2009年から多額の投資が始まり、その後の6年間で200兆元(約4000兆円)にもなった。

次第に投資効率は下がり、経済成長より借金残高の増え方の方が早くなってしまった。これまで経済成長が落ちると公共投資を増やして成長を支えてきた。そのため急に投資を押さえ込むと経済成長率は大きく落ち込んでしまう。

投資に代わる経済成長の仕組みを作らなくてはならない。そのため政府は規制緩和や国有企業の改革、市場開放などを進めている。しかしなかなか思うようには進まない。そのためAIIBによって中国企業に新しい投資の機会を作ろうと考えた。それに中国には鉄鋼、セメント、建材、石油製品など大量の在庫を抱えている。そのためアジア各国の投資先は、過剰生産した製品の輸出先にもなる。

2013年10月、習近平国家主席はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でAIIBの設立を提唱した。さらに2014年10月には、北京に21カ国が集まり、設立の覚書に調印した。

AIIBには57カ国が参加を表明した。当初中国は日本の参加を強く望んでいた。しかし最後まで参加しなかった。主要国で参加しなかったのは、日本のほかアメリカ、カナダ、メキシコ、アルゼンチンである。

日本はアメリカと歩調をあわせて各国へ参加を見合わせるように働きかけた。建前は運営が不明確で、ADBとの役割分担がはっきりしないなどであったが、実際は中国が国際金融で影響力を強めることを嫌ったのだろう。

ところが中国もしたたかで、参加申し込みに締め切り期限をきめそれを3月末とした。期限内に申し込めばAIIBの仕組みづくりに参加できるという条件を設けた。3月12日、突然、イギリスが参加を表明した。

これを知ったアメリカの財務長官(日本でいう財務大臣)のルーは、電話に飛びつき、イギリスの財務相のオズボーンに30分にわたってまくし立てた。「去年の秋から中国提案のどこがどう変わったのか。こんな抜け駆けが許されるのか」「やはり参加することにした。内側から中国の動きを監視するから」。食い下がるルーを冷たく突き放した。

昨年秋に日米欧は、G7議長国の独財務相を中心にAIIBの創設メンバーに入るのを見合わせることで一致していただけに衝撃は大きかった。アメリカの議会は、対中強硬派が多い野党の共和党が上院下院ともに多数を占めている。そのためAIIBへの参加はとても認められない状況にある。
 
3月16日にはフランス、ドイツ、イタリアが、その後ロシア、オーストラリア、韓国なども参加を決めた。南シナ海で中国と領土権の争いをしているフィリピンやベトナムも参加している。

イギリスの参加の狙いは、中国の通貨である人民元の取引の囲い込みとみられている。国際金融センターであるイギリスは、貿易などで急速に存在感が増していく人民元の海外取り引きの拠点なるために金融面で中国との協力を強化してきた。
 
しかしドイツやルクセンブルクなども同じ考えを持っている。イギリスの金融機関は争奪戦に負けると国際金融センターの地位を失いかねないという危機感を抱いている。そのため、いちはやく参加を表明することによって、中国の印象をよくしてライバルに差をつけようとしたとの見方がある。

イギリスの思惑とおり、イギリスの参加表明はヨーロッパ各国の流れを一気に変えてしまった。金融立国のルクセンブルクやスイスも参加した。各国は中国との関係で参加をしなくてはならない事情がある。ドイツとフランスは自動車が、イタリアは高級衣料品が、それぞれ主要産業だが、中国が重要な貿易相手国となっている。

日本やアメリカとヨーロッパとは安全保障上の懸念の違いを指摘する向きもある。また信用力のあるヨーロッパの各国が参加することは、市場からの資金調達が容易になるというメリットがある。

中国の力だけで一流の国際機関を作る上げられないことが、よく分かっている人物が中国側の中心人物にいるようだ。そのため当初から日本の参加を強く要請してきた。また東南アジア諸国から中国に、日本の参加を求める声が多かったという。

これほどまでに参加国が増えるとなると日本もほってはおかれない。ADBの中尾総裁は、条件を満たす形でAIIBがスタートするなら、協調融資などで協力していく、それは日本の利益にもつながる述べている。
 
中尾総裁は、ADBは、アジアで大きな信頼を得てきた。資本金は2014年末で約18兆3千億円、職員数2990人、うち1074人は専門職員、初代から日本人が総裁を務めてきた。

この実績をみても中国は日本とに関係を維持していきたいのだろう。当面日本がAIIBとどのようなかかわりを持つか分からないが,何らかの形で協力関係は持たざるをえないだろう。

 
朝日新聞が記事の扱いについて批判にさらされている。きっかけは福島の第一原子力発電所の事故発生当時の状況を、政府の事故調査検証委員会が吉田元所長から聞き取ってまとめた報告書(吉田調書)の内容を事実を変えて記事にしたこと。

朝日新聞は5月20日の朝刊に、「所長命令に違反、原発撤退」の見出しで、「事故の起きた2011年3月11日から4日後の朝、福島第一原発いた東電社員ら9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」と報じた。

これでは東電の社員たちは吉田元所長の命令を無視して、勝手に逃げ出したと言わんばかりの表現ではないかという批判が出始めた。外国のメディアにも、このような批判的な記事が掲載された。吉田調書の内容が明らかになるにつれて朝日新聞の記事が事実と異なるといった批判が強まっていった。

ところが朝日新聞は、批判的な報道に対して謝罪や訂正をしなければ法的措置をとるといった抗議書を次々と送りつけたという。

吉田元所長は「撤退」という言葉を強く否定し、撤退の指示も出しておらず、所員や作業員が命令に違反したとの認識もないと話す。現場に多くの作業員が残り、事故対応に当たっていたことは周知の事実という。この報道直後から記事の内容に疑問に感じた人は少なくなかったという。

調書によると、吉田元所長は、「本当は私、2F(第2原発)に行けと言っていないんですよ。福島第1の近辺で、線量低いところに1回退避して次の指示を待てと言ったつもり」と話している。「よく考えれば(線量の低い)2Fに行ったほうがはるかに正しいと思った」と話している。

2011年の3月15日、第11原発で事故対応を指揮する幹部級の社員など約650人が第2原発に退避したが、約70人が残って事故対応に当たっていた。

吉田調書について日本政府は「本人からの非公開を求める上申書が出ていた」として公開しない方針だった。しかし5月20日に朝日新聞が、その後8月8日に産経新聞がその内容を報じた。そのこともあって政府は8月22日に方針を変え9月11日に公開した。

上申書は公官庁に提出するで法律に基づくものを申請書、申立書と書かれるが、そうでにものを上申書として区分される。上申書の内容は法律的な拘束がないので何を書いてもかまわない。しかしなぜ非公開のはずの調査報告書が朝日新聞社の手に渡ったのかはわからにない。

9月11日、朝日新聞社の木村社長が記者会見し、5月に報じた吉田調書を巡る記事について、「間違った記事だと判断した」と述べ、記事を取り消す考えを明らかにし、読者および東京電力の社員などに謝罪した。

吉田元所長はこの謝罪を知らないまま死去した。吉田元所長は、2011年11月24日食道がんの治療のため入院し、翌年2月に食道を切除。2012年7月26日、脳出血で緊急入院し手術を受ける。2013年7月9日食道がんで死去した。

それにしてもなぜ朝日新聞は、事実に反して、東京電力の社員が元所長の命令を無視して逃げ出したというような記事を書いたのか。しかも事実と違うという指摘した報道に厳重抗議したというからわからない。

この点について記者会見では、吉田調書は非常に秘匿性が高かったので直接目を触れる者は限定していた。取材した記者たちは専門的な知識を有する。他のデスクや記者は見なかった。結果的にチェックが足りなかったと弁明している。

しかし、内容を曲げて書いたとしてもいずれ事実はわかること。担当した専門的な知識を持つ記者は、そのことが判断できなかったのか。あるいはスクープした情報だったので読者をひきつけようと事実を曲げて書いたのか。まさかと思うが吉田調書を正しく読み取れなかったのか。記者の資質に問題があるのか、新聞社の体質に問題があるのか。

普段朝日新聞は批判的な立場で記事を書いているはずなのに、記者会見ではなんとかその場を取り繕うとするあいまいな姿勢が見えた。このような会見ではどのようにとられても仕方がない。

今回の一件に、知名度の高いジャーナリストが書いたコラムの扱いが加わった。月1回掲載してきたジャーナリストの吉田調書についてのコラムは、「今回の検証は自社の報道の過ちを認めてているのに謝罪の言葉がない」などと朝日新聞の姿勢を批判するものだった。同社は一時掲載を見合わせたが批判が集中したため、結局は掲載した。批判は言論の自由を押さえつけてしまうものだというもの。

一連の騒動の原因は経営者が新聞の役割を認識していないように見受けられる。とにかく新聞を売ることを優先するあまり、事実より読者を引き付けるための内容に表現を変えてしっているのかもしれない。

それにしても朝日新聞の報道の信ぴょう性に批判的な報道に対して厳重抗議をしたのは自社の記事に間違いがないという自信があったからだろう。となると間違い記事を書いた記者の資質に問題があるのではないか。また間違い記事を正当化しようとした朝日新聞社の経営姿勢や組織風土に疑問を感じる。

今回の問題に関連して各方面から批判や意見が出ているがおかしなものもある。報道には間違いがある。間違ったことがわかったらすぐに謝罪すべきだというもの。間違いがあることを認める発言に驚いた。報道は事実を伝えることが使命。間違いあってはならないのだ。

間違った報道は日本の威信や信頼を失わせることもある。また多くの人を傷つけることにもなる。謝れば済むというものではない。従軍慰安婦の問題は長い間、捏造されたものだとわかっていても取り消しや謝罪をしないままになっていた。これらに対する朝日新聞の責任は大きい。

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