悲惨な事故が起きた。マレーシアの民間航空機がミサイルに撃墜され、乗員乗客全員が犠牲になった。まだすべての遺体が収容できていない。その原因が親ロシア派武装勢力が支配している墜落現場への立ち入りを邪魔しているためというから理解に苦しむ。

しかも機体の墜落原因を究明し、責任を明らかにするために残骸などを回収することができないまま。

親ロシア派武装勢力が機体の墜落地域への立ち入りをかたくなに拒否しているのは、ミサイルを発射した証拠を見つけられるのを恐れているためか。それに事故現場がかなり広いため、自由に立ち入りを許すと国際調査団や欧米のメディアが大挙押しかけて政府軍との戦闘に影響がでることを嫌っているのだろう。

7月18日、マレーシア航空の旅客機が離陸してから4時間後の午後5時15分、日本時間の午後11時15分に、ロシア国境に近いウクライナ東部で墜落した。この旅客機は、乗員乗客283人を乗せてオランダのアムステルダム空港から、マレーシアのクアランプールに向かっていた。

この事故で全員の死亡が確認された。犠牲者の6割近くの193人がオランダ人で、マレーシが43人、オーストラリアが27人、インドネシアが12人、英国が10人などと10カ国に及ぶ。また破損した飛行機の残骸は数十キロと広範囲にわたる。

墜落したのはウクライナの東部で親ロシア派武装勢力が支配している地域。遺体の収容が最優先されるべきなのに親ロシア派武装勢力は妨害を続け、事故から4日たってようやくウクライナ側にわたったようだ。しかし遺体は全員ではなく、一部は現場に残されたままになっているようだ。

マレーシア航空機は事故ではなく、地対空ミサイルの攻撃を受けて墜落したことは間違いない。しかし誰が、どのような目的で攻撃をしたかはっきりしない。まさか民間機とわかっていて打ち落としたとは思われない。

事故の原因を解明するためには、機体などを回収しなくてはならない。しかし現地に向かった国際調査団は親ロシア派武装勢力の妨害にあって調査は進んでいない。肝心のフライトレコーダーやボイスレコーダーはようやく政府側に渡され、イギリスで解析されることになった。

5日、親ロシア派は主要拠点としていた地域をウクライナ政府軍に奪い返され、次第に後退せざるをえなくなっている。そのため親ロシア派は劣勢を挽回するため軍用機を攻撃目標にし始めている。

親ロシア派にはロシア国籍の軍関係者が多く含まれているだけでなく、兵器も運び込まれている。ただ戦闘員は寄せ集めで規律もなく組織力は弱いものとみられる。また指導部にはプーチン政権の意向に従わない強硬派も少なくない。

ミサイルは親ロシア派が発射したとの見方が強い。そのことは衛星写真などによって確認されているようだ。当然ロシアも発射位置までも把握しているだろう。アメリカの国務長官はマレーシア機撃墜にロシアが関与を示す膨大な多数あると非難した。

21日国連安保理はマレーシア機撃墜を非難する決議を全会一致で採択し、親ロシア派武装勢力に対し墜落現場への「安全かつ無制限」の立ち入りを認めるよう求めた。オーストラリアが作成した決議の草案は、撃墜に関与した人物は、責任を問われるべきであり、責任の所在の特定に向け、各国が完全に協力すべきだとしている。

ところが25日、ウクライナの報道官が親ロシア派武装勢力が攻勢を強め、墜落現場では住宅地のおよそ4分の1が被害を受けたことを明らかにしている。そのため真相究明のための国際的な調査団の安全を確保するための方策を見出せないでいる。

アメリカ政府は、ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力との戦闘が続くなか、ロシア領内から直接ウクライナ政府軍の拠点へ砲撃していると非難している。

遺体搬送や現地調査が進まないため国際社会はロシア非難が高まってきた。そのためロシア軍は、危機感を感じて国内外の記者団を集め緊急の記者会見を開き、親ロシア派武装勢力への関与を否定した。

今年の3月、ロシアはクリミア自治共和国をロシアに編入してしまった。クリミアロシア人およびロシア語を母国語とするウクライナ人が半数以上を占めている。 ロシア及び親ロシア派の自警団が武力で全域を掌握して住民投票を実施し、クリミア共和国としてロシアに編入してしまった。しかしロシアの強引なやり方に対し、アメリカ,EUや日本など諸外国はロシアへの編入を認めていない。

ロシアはウクライナのクリミアに大規模な海軍基地を置いている。しかしウクライナに親欧米政権が誕生すると、基地の存続が危うくなることを恐れて、クリミアをロシアに編入するという強硬手段に出た。

クリミアは、黒海に面していて軍事的にも、豊富な地下資源を有し、しかも天然ガスの供給ルートとしてもロシアにとって重要な地域である。

その後もウクライナな軍と親ロシア派武装勢力が戦闘を続けていた。そんな時マレーシア航空機がミサイルで撃墜された。

プーチンにとって、ウクライナの欧米への傾斜は好ましくない。そのためロシアは親ロシア派武装勢力を利用して意図的にウクライナを不安定な状況に置こうとしてるように1向けられる。

プーチンは国内で絶大な指示を受けている。国内での経済策と対外的な強行姿勢を背景に支持率は80%以上といわれている。ただ報道規制は厳しく、一連のマレーシア航空機事故についても国内へは知らされていたいという情報もある。

アメリカとロシアは互いに非難を続けているが、当面はこのような状況が続くだろう。西側諸国はロシアとの関係があるため強硬な制裁には及び腰である。特にエネルギーの供給国として、あるいは消費国として経済的なつながりが強いだけにあいまいな関係が続くものと思われる。