なにかと中国の動きが注目を集める。最近話題になっているのが中国主導で進められているアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立の動き。表向きの理由は、世界経済のけん引役として成長が期待されているアジア諸国の資金不足に応えるため。しかし実情は、中国の国内事情によるとこものと思われる。

アジアは2020年までに年間100兆円近い投資需要があるとの試算がある。すでに世界銀行などの金融機関があるが、この膨大な資金需要には応えきれない。そこで中国は各国から参加を募ってAIIBに資金提供を受け、途上国に資金提供をしようというもの。

中国のAIIB設立の狙いの一つは国際的な発言権の強化。中国は世界第2位の経済大国だが、なかなか国際金融社会での発言権を強めることができない。主な金融機関に世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)がるがいづれもアメリカ主導のもとに秩序が守られてきた。
 
世界銀行は、途上国への資金や技術支援をする。特徴として貧困削減がある。総裁はアメリカで、資本規模は、28兆円。出資比率は米国が16.7%、日本が7.2%、中国が4.6%。

IMFは財政収支が悪化した国への資金援や為替相場の安定化などを目的としている。総裁はヨーロッパからでている。資本規模は43兆円。出資比率は、米国が17.7%、日本が6.6%、中国が4.0%。

アジア開発銀行は、アジア諸国への開発資金融資、技術援助などが目的。総裁は日本人。資本規模は19兆円。出資比率は、日本が15.5%、米国が15.6%、中国が6.4%。

各機関ともに議決権は出資額に応じて決まる。議決権が低いと融資先や内容、融資額についての意見が反映されにくくなる。3つの機関をみるといづれもアメリカの出資比率が高くなっている。

中国はこの点に不満を感じている。それに環境面などで融資の審査が厳しいここともある。たとえばIMFについて、アジア通貨危機のとき審査が厳しく時間がかかって間に合わなかったことがある。また融資の条件が厳しく、緊縮財政が条件であったため経済を悪化させてしまったこともある。これらのことを中国や途上国は不満に思っている。
 
このようにアメリカ主導の体制で、融資条件が厳しいことに不満を持ち、中国主導の新しい体制作りをつくることを目的にAIIBの設立をめざした。それに中国の経済的ナ事情が加わる。

中国は過去数年、毎年8~10%の経済成長を続けてきた。しかしその半分は投資がもたらした伸びだった。投資は製造業の設備投資、不動産への投資、公共投資などだが、リーマンショック後の経済の落ち込みを防ぐため、2009年から多額の投資が始まり、その後の6年間で200兆元(約4000兆円)にもなった。

次第に投資効率は下がり、経済成長より借金残高の増え方の方が早くなってしまった。これまで経済成長が落ちると公共投資を増やして成長を支えてきた。そのため急に投資を押さえ込むと経済成長率は大きく落ち込んでしまう。

投資に代わる経済成長の仕組みを作らなくてはならない。そのため政府は規制緩和や国有企業の改革、市場開放などを進めている。しかしなかなか思うようには進まない。そのためAIIBによって中国企業に新しい投資の機会を作ろうと考えた。それに中国には鉄鋼、セメント、建材、石油製品など大量の在庫を抱えている。そのためアジア各国の投資先は、過剰生産した製品の輸出先にもなる。

2013年10月、習近平国家主席はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でAIIBの設立を提唱した。さらに2014年10月には、北京に21カ国が集まり、設立の覚書に調印した。

AIIBには57カ国が参加を表明した。当初中国は日本の参加を強く望んでいた。しかし最後まで参加しなかった。主要国で参加しなかったのは、日本のほかアメリカ、カナダ、メキシコ、アルゼンチンである。

日本はアメリカと歩調をあわせて各国へ参加を見合わせるように働きかけた。建前は運営が不明確で、ADBとの役割分担がはっきりしないなどであったが、実際は中国が国際金融で影響力を強めることを嫌ったのだろう。

ところが中国もしたたかで、参加申し込みに締め切り期限をきめそれを3月末とした。期限内に申し込めばAIIBの仕組みづくりに参加できるという条件を設けた。3月12日、突然、イギリスが参加を表明した。

これを知ったアメリカの財務長官(日本でいう財務大臣)のルーは、電話に飛びつき、イギリスの財務相のオズボーンに30分にわたってまくし立てた。「去年の秋から中国提案のどこがどう変わったのか。こんな抜け駆けが許されるのか」「やはり参加することにした。内側から中国の動きを監視するから」。食い下がるルーを冷たく突き放した。

昨年秋に日米欧は、G7議長国の独財務相を中心にAIIBの創設メンバーに入るのを見合わせることで一致していただけに衝撃は大きかった。アメリカの議会は、対中強硬派が多い野党の共和党が上院下院ともに多数を占めている。そのためAIIBへの参加はとても認められない状況にある。
 
3月16日にはフランス、ドイツ、イタリアが、その後ロシア、オーストラリア、韓国なども参加を決めた。南シナ海で中国と領土権の争いをしているフィリピンやベトナムも参加している。

イギリスの参加の狙いは、中国の通貨である人民元の取引の囲い込みとみられている。国際金融センターであるイギリスは、貿易などで急速に存在感が増していく人民元の海外取り引きの拠点なるために金融面で中国との協力を強化してきた。
 
しかしドイツやルクセンブルクなども同じ考えを持っている。イギリスの金融機関は争奪戦に負けると国際金融センターの地位を失いかねないという危機感を抱いている。そのため、いちはやく参加を表明することによって、中国の印象をよくしてライバルに差をつけようとしたとの見方がある。

イギリスの思惑とおり、イギリスの参加表明はヨーロッパ各国の流れを一気に変えてしまった。金融立国のルクセンブルクやスイスも参加した。各国は中国との関係で参加をしなくてはならない事情がある。ドイツとフランスは自動車が、イタリアは高級衣料品が、それぞれ主要産業だが、中国が重要な貿易相手国となっている。

日本やアメリカとヨーロッパとは安全保障上の懸念の違いを指摘する向きもある。また信用力のあるヨーロッパの各国が参加することは、市場からの資金調達が容易になるというメリットがある。

中国の力だけで一流の国際機関を作る上げられないことが、よく分かっている人物が中国側の中心人物にいるようだ。そのため当初から日本の参加を強く要請してきた。また東南アジア諸国から中国に、日本の参加を求める声が多かったという。

これほどまでに参加国が増えるとなると日本もほってはおかれない。ADBの中尾総裁は、条件を満たす形でAIIBがスタートするなら、協調融資などで協力していく、それは日本の利益にもつながる述べている。
 
中尾総裁は、ADBは、アジアで大きな信頼を得てきた。資本金は2014年末で約18兆3千億円、職員数2990人、うち1074人は専門職員、初代から日本人が総裁を務めてきた。

この実績をみても中国は日本とに関係を維持していきたいのだろう。当面日本がAIIBとどのようなかかわりを持つか分からないが,何らかの形で協力関係は持たざるをえないだろう。