やっと停まっていた原発の一つが動き始めるようだ。2011年3月の東日本大震災以後国内の原発は定期検査がきた順に停まっていった。国内には54基の原発があったが、福島原発の6基の廃止が決まったので現在は48基が停止中。

2012年5月に北海道の泊原発3号機が定期検査のため運転を停止し国内のすべての原発が停止した。しかしこの年7月に多くの問題を抱えたまま福井県の大飯原発が再稼動した。そして2013年9月に定期検査のため停止し、再びすべての原発が停止している。

原発に替わって火力発電所が電力を供給しているため停電は避けられているが、燃料費が増えて電気料金が値上がりし、家庭や経済活動に影響を与えている。

先月、北海道電力は再稼動の見通しが立たないとして家庭向け電気料金を再度引き上げる意向を示した。すでに家庭向けで7.73%、企業向けで11%引き上げている。原発が動かないと、1基の発電コストは1日で2億円~3億円増えるというから関係者はあせる。

再稼動の審査が始まったのが2013年の7月。8つの電力会社が10原発17基の審査を申請している。当初規制委員は順調なら審査は半年程度で終わり、早ければ昨年の末にも再稼動が決まるとみられていた。ところがいつまでたっても終わる見通しがたたないため政府内から批判の声が出始めた。しかしここにきて再稼動に向けて動き出した。

再稼動審査で難しいのは地震への対応。地震が起きる可能性と震度の予測だ。それによって対策の費用も時間も大きく変わる。しかも対策を講じても絶対安全と言い切れないところに難しさがある。

そんな折、鹿児島県の九州電力川内原子力発電所の再稼動に向けた安全審査が進められることがわかった。早ければ5月には審査結果が出て夏には稼動できる見通し。川内原発が優先的に審査を受けることになったのは、地震や津波の危険度を最大限に見積もって対策を講じたことによる。

今後再稼動を認められる原発は増えるものと思われる。特に地震対策を進めてきた愛媛県の四国電力伊方原発や佐賀県の九州電力玄海原発の審査が進むものとみられている。

3月16日、鹿児島市で脱原発を訴える市民集会が開かれた。主催者は参加者を6千人と発表した。しかしこのニュースは東京には伝わってこなかった。3月18日にある新聞社が原発再稼動についての全国世論調査を行った。再稼動賛成が28%、反対が59%という結果になった。各紙の調査でも同じような結果となっている。

ところで政府は原発事故後間もなく停止中の原発を再稼動させようと動き始めた。しかし、大事故の後にもかかわらず規制基準を見直すこともなく進められた。福島事故のあったわずか3週間後の3月末に、国の原子力・保安院は緊急安全対策を各電力会社に指示をした。経済産業省は、この対策がとられたことが確認できれば再稼動をさせるという考えだった。

6月に、当時の海江田経済産業大臣は原発の安全宣言をし、定期検査の作業を終えていた佐賀県の玄海原発を再稼動させようとした。しかし、まだ福島原発の実情がわからないうえに、安全基準の見直しもしないまま、また原発の推進と規制の両方が経済産業省にあるという組織上の問題も未解決のままの再稼動だった。大事故が起きて間もないというのに安全を無視した進め方に批判の声が上がった。

そこで政府は、7月、急遽ストレステストを導入することを決めた。ストレステストは地震や津波などがおきたとき、原発がどこまで耐えられるか、弱点はどこかどを評価するものだがこのテスト。どの程度安全が確認できるかは不明確だった。

これを受けて関西電力は、10月に3号機の、11月に4号機のストレステストの結果を原子力安全・保安院に提出した。翌2012年2月にこれを「妥当」とする審査書が作られ、3月に原子力安全委員会も「妥当」とし、この日開かれた委員会は5分で終わった。これを傍聴していた市民は「結論ありきの茶番だ」と批判した。

4月6日に国は「原子力発電所の再稼動にあたっての安全性に関する判断基準」(暫定基準)を示したが、3日後の4月9日に関西電力は安全対策の計画書を提出した。この日関係3閣僚協議が開かれ、事実上の安全宣言をした。3日で計画書を作成するとはあまりにもお粗末な対応といえる。政府は安全性や世論より再稼動を最優先して進めた。

その後県専門家委員会の結論が大幅にずれ込んだが、地元の同意を得て2012年7月に3号機、4号機が再稼動した。しかし2013年9月には3号機、4号機が定期検査に入ったため再びすべての原発が停止した。

原発は電気事業法によって年1回原子炉を止めて定期検査を行うことが義務付けられている。定期検査期間は約3ヶ月。定期検査後の再稼動には地元の了解は求められていないが、福島原発事故後は地元の了解を優先している。

福島原発の事故間もないのに大飯原発の再稼動を急いだのは、夏場の電力不足を避けたかったため。関西は原発依存度が高い。2010年度の関西電力の原発比率は51%と全国10電力会社で1番高く、なかでも大飯原発の発電量は、日本で2番目に多い。そのため政府は、再稼動できなかった場合の影響を恐れて再稼動を急いだ。

前年のような猛暑になるとピーク時には15%の電力が不足するとみられていた。経済活動や家庭生活への影響は避けられないという事情があった。そのためこの夏の電力不足を乗り来るため強引に再稼動をさせようとした。

2012年10月、原子力委員会は福島原発事故を教訓に規制基準の見直しを始めた。そして2013年7月に新規制基準をまとめ施行した。

福島原発事故では地震に対しては原子炉は正常に自動停止し、非常用ディーゼル発動機も正常に起動した。ところが、その後に襲ってきた津波により非常用ディーゼル発動機、配電盤、バッテリーなどの重要な設備が被害を受け、非常用を含めたすべての電源が使用できなくなり、原子炉を冷却する機能を喪失した。その結果、炉心溶解をそれに続く水素爆発による原子炉建屋の破損などにつながり、環境への重大な放射性物質の放出にいたった。

そのため新規制基準では電源喪失に備えて24時間以上もつバッテリーを置くことや、火災対策として燃えにくいケーブルを使うこと、複数の空調設備を備えた免震重要棟を備えることなどを義務付けた。

また地震や津波の想定を厳しくした。起こりうる最大の津波を計算して防潮堤などの設置を義務付けている。活断層もこれまでよりも年代を広げ、判断が難しい場合は活動の時期を40万年前までさかのぼって調べることを求めている。

福島原発事故後、経済産業省に原子力発電を推進する「資源エネルギー庁」と規制する「原子力安全・保安院」がある。しかも両方の組織間で人事異動が行はれてきた。また退職者が電力会社に天下りし、規制行政にかかわるなど組織の機能が果たされていなかった。

そのためその機能を環境省に移し、2012年9月に独立性の高い「原子力規制委員会」を置き、事務局として「原子力規制庁」を新設した。

そのほかテロ攻撃対策などかなり厳格な基準が設けられたが、それでも絶対安全とは言い切れない。そのため事故があった際の避難対策などの整備が求められる。さらに再稼動はしても常に安全性を向上させるための努力は続けて欲しいものだ。